木の声
「お姉ちゃん何してるの?」
三宅こずえが目を開けると、目の前に小学高低学年くらいの小さな男の子が不思議そうにこっちを見ていた。
「この木の声を聞いてたの」
物心ついた時から私は自然と自分の能力を使うようになっていった。自分の手を木にかざすことで、人類の歴史や進化の過程を読み取ることができた。
戦争の記憶や文明の発達も、本で読むよりリアルに木が語ってくれた。木は決して自分の感情で話しかけてくることはなかった。
過去に起きた出来事をありのまま静かに教えてくれた。今までの私の経験から、木の樹齢年数と木の記憶量はいつも比例しているということが解った。
この日も10分位木の声を聞いていた。内容はこんな感じだった。
「この国の時代の変化は本当に劇的だ。狩猟民族、サムライ、文明開化、高度成長、IT革命、テクノロジー。特にこのテクノロジーは加速的に発展を遂げた。
人工知能の出現により人間のライフスタイルや働き方が大きく変わり、時代の変化に対応できないモノやサービスはどんどん消えていった。
その中で逆に価値が上がってゆくものもあった。(人と人とのつながりやコミュニティ)だ。特に(一対一で会話する時間)は脳に良い刺激を送り、健康面にも良い影響を与えることが科学的に解明された。
ロボットが活躍する今の世の中で、(人間一人一人の個性やキャラクター)が重宝されるようにもなっていった。
さすがに人間ならではの仕草、雰囲気、考え方、話し方、感情、アイデンティティ、ユニークさをロボットが真似するのは難しかった。
その後も人類の進化はどこまでも続き、宇宙船で別の惑星に移り住むこともできるようになった。
・・・ワタシモウチュウセンニイレラレタ・・・ニンゲンニハコバレタ・・デモ・・・ソレハ・・・ワタシノカンチガイダッタ・・・ホントウハ・・・ニンゲンジャナカッタヨウダ・・」
木の声はここで終わっていた。木が語ってくれた内容で解らないことが私にはいくつかあった。(サムライ)って何だろう?あと(ウチュウセンニイレラレタ)ってどういうことなんだろう?
「お姉ちゃん何してるの?」
三宅こずえが目を開けると、目の前に小学高低学年くらいの小さな男の子が不思議そうにこっちを見ていた。
「この木の声を聞いてたの」
「ねえねえ、聞きたいんだけどサムライってなーに?」
「サムライは日本という国にあった文化の一つだよ、この惑星からは宇宙船に乗らないと辿り着けない場所だね。ただ今はもう無いかもね、数千年前までは自然も豊富で人も住める所だったみたいだけど」
「あなたまだ小さいのに色んなこと知ってるのね」
「そりゃーそうだよお姉ちゃん、だってお姉ちゃんを作ったのは僕だよ」
「ピピ!」
男の子はポケットからリモコンを取り出しボタンを押した。その瞬間、三宅こずえの動きがぴったりと止まった。
「自分で言うのもなんだけど、今回の新作ロボットは過去最高の出来だと思う。それにしても人間は何で絶滅したのかな?ロボットにはない寿命ってやつがあったからかな?」
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